講師が、1つの単元を解説するために考えた内容です。これらを実際の講義の参考にしています。 
●テキスト4-1-2 聞き上手になるには
脇沼 講師
 
人は誰でも「自分を理解してもらいたい」「話を聞いてほしい」という気持を持っています。これは、人間の願望の中でも特に強いものです。
 自分が話し手になったり、相手が聞き手になったりと、「話す」「聞く」の繰り返しで相互理解が深まります。
 精神的につらいとき、怒りたいとき、恥ずかしいことをしてしまったとき、誰かに話を聞いてもらうと自分という存在が受け容れられたと感じ、気持ちが落ち着きます。嬉しい体験をしたとき、自慢したいとき、そんな時に聞いてくれる人がいれば嬉しさは倍増します。
 ここ数年音信不通だった学生時代の部活の仲間、佐千子さんから昨年の1月10日にとつぜん年賀状が届きました。「夫が一昨年9月人間ドックでいきなり末期近い肺がんを宣告され(毎年受診していたのに)一時は落ち込みましたが治療の成果で今は病状も安定しています。今年は会えるといいけど・・・」と書かれていました。彼女から連絡がなかった理由が分かりました。彼女になんと声をかけてよいか戸惑い、「ご主人の症状が落ち着いてよかったですね。悦子さんと三人で会いましょう」とメールを送るとすぐに返事があり、2,3カ月に1回の昼の女子会が始まりました。
 「たまには、気晴らしもしたいけれど、他の友だちは私がピリピリしていると思って気を遣って誘ってくれないのよね」。こんな佐千子さんのことばから病人を抱えて神経をすり減らす毎日のなかで、仲間とのコミュニケーションを唯一の楽しみにしていることが伝わってきます。「近所に住む友人がご主人や娘さんの愚痴を言うけれど、我が家から見れば贅沢言っているとしか聞こえない」とションボリします。その一言から聞き手への配慮に欠けることばに気を付けなければと肝に銘じました。がん治療の技術は目覚ましいスピードで進歩しているそうです。長生きすればがんになっても生存率が高くなることを知り、三人で「長生きしようね」と誓い合いました。
 たわい無い昔話が主の女子会ですが、佐千子さんは話すことで気持ちが安定したのか、「病気のことを考えてもしょうがないから、その時の状況に身を任せてやるしかないと思っている」と前向きなことばも出てきました。別れるときには「楽しかった。また会おうね。次はいつ?」と必ず聞いてきます。
 聞き上手になるには、先入観にとらわれず虚心に聞くことが大切です。相手に関心を持ち、相手の気持を感じ取り理解しようと努めることが求められます。聞き上手になってよい人間関係を築き、充実した人生を送りましょう。 社会生活を送る中で人間関係の大切さを理解し、そこで果たす話し方の重要性を学びます。

●話は聞き手が決定することについて
橋本 講師

 私たちは、自分が考えたことを話したら、そのまま相手に同じ意味で通じるものだと考えている。これは、家族や友人、会社の同僚などの人間関係が出来ており、意思疎通のしやすい環境が整っている場合での会話が多いからである。 しかし、たとえ友人であっても、話し手である自分と、聞き手とは相手では、育ってきた環境や経験が違うため、物事や人の捉え方が異なっているものである。そのため、自分の言ったことが違って意味で理解されたり、聞き間違えられたりすることが起きることになる。
 以前、教室の生徒で、以下のように「話したことが相手に間違って受け取られた」という話をする方がいた。
 その生徒の佐藤さんは女性で、友達に手作りのはがきや手紙の用紙を作るのを趣味としている方がいた。佐藤さんは、夏や冬の時期に、いつも手作りの手紙やはがきをその友人からもらっていた。それは、いろんな模様や飾りがついていてきれいなものであった。作り方は、牛乳パックなどを細かくして水に溶かして漉き、それにいろんな形の色紙をのせて乾かして作るもので、時間と手間のかかるものであった。
 佐藤さんはある時、相手の作る手間が大変に思われため苦労をかけないように、「はがきや手紙は、今の時代は百円ショップにもあるのによく手間をかけて作るね」と、話をした。そうしたところ友達は、「お金がもったいなくて作っているんじゃない」と怒って、電話を切られてしまった。佐藤さんは、びっくりして、怒らしてしまったと思い、すぐに電話をかけて謝ったが、友達は、「分かったから」と言葉をいうだけで、全然分かってくれなかった。その後、会って謝ろうと思い、何度電話しても電話に出てくれなかった。
 そこで、何とか自分の本心とは違って伝わっていることを伝えたくて、佐藤さんは、友達に手紙を書いた。そうしたところ、友達からも手紙が届き、言っている本当のことが分かったので、また友達として付き合いたいと書いてあった。それ以来、今でも仲良く付き合っているとのことである。  このように、それまで仲良く付き合っていて、しかも相手を気遣うつもりの言葉でも、違った意味で伝わり、絶交にまでなりかねない場合がある。このようなことが、なぜ起きたのだろうか。これは、「はがきを手作りする」という行為に対して、佐藤さんと友人が、全く異なる認識を持っていたにもかかわらず、佐藤さんが自分の考え方で、相手に話してしまったことである。そのため、佐藤さんが、その友達が、手作りをすることの大切を考慮して話していれば、相手を傷つけるようなことにはならなかったと考える。したがって、気持ちを相手に正しく伝える場合は、違った意味に伝わることの無いように、細かく注意しながら相手の気持ちを考えて話すことが大切である

 

●テキスト3-2 スピーチの構成
1.すばらしいスピーチとは 2.スピーチの四条件
橋本 講師

 聞いた人がいつまでもよく覚えていて「いい話を聞けてよかった」とあとあとまで印象に残るスピーチこそ、理想的なスピーチといえるでしょう。みなさんも、講演会などで、すばらしいスピーチを聞いたという経験はないでしょうか。すばらしいスピーチは、時間の経つのを忘れるくらい集中して聴けるものです。また、いい話を聞くと家族など他人にも話してみたくなる気持ちになるものです。
著名人で印象に残るスピーチとしては、スティーブ・ジョブズが、2005年6月にスタンフォード大学の卒業式で祝辞を述べたときのスピーチがあります。タイトルは「ハングリーであれ。分別くさくなるな」です。このスピーチは、インターネットで大きな話題になり、その動画はユーチューブでも人気を誇っていました。内容を簡単に紹介しながら、説明していきます。
 世界でもっとも優秀な大学の卒業式に同席できて光栄です。私は大学を卒業したことがありません。実のところ、きょうが人生でもっとも大学卒業に近づいた日です。(スピーチの導入で、大学を中退した自分が卒業の祝辞を述べるというユーモアを入れています。) 今日はみなさんに、私の体験談を3つお話しようと思います。それだけです。特別な話をするつもりはありません。体験談を3つです。(これは、体験談を3つ語るという形で、聞き手に話の全体像をはじめに示しています。) 最初の体験談は、点と点をむすぶということについてです。大学の入学から半年で、家庭の事情や必要性を感じられないことで、リード大学を中退しましたが、自分の興味のあるカリーグラフィー(文字をきれいに見せる技法)の講義は忍び込み聞いていました。その10年後、パソコンのマッキントッシュにカリーグラフィーの文字を入れて、人気を収め「点と点を結んだ」ということになります。つまり、人生で学んだものは無駄なことはなく、必ず後で役に立つものであるということであります。
 2番目の話は愛と喪失についてです。20歳の時にコンピューターを愛するようになり、その情熱を友人と共有して会社を起こし、10年後には20億ドルと4000人の会社に育てました。しかし、30歳の時に迎い入れた経営者と方針が合わず、解雇されることになります。それでも前に進めたのは、その仕事が好きだったからです。みなさんも愛していると言えるほどのものを見つけてください。解雇された後も、やはり自分がやってきたことは自分の好きなことだと分かり、ピクサーという世界で最も成功したアニメーション制作会社を作ることができ、この経験が今のアップル社にも役立っているということです。 
 3番目は死についてです。(この祝辞でもっとも感動的な部分です。膵臓ガンだと医師に告げられ、余命3か月だと宣告されたが、のちに治る可能性のあるガンであることが分かり、この経験がジョブズに大きな影響を与えます。) 時間は限られています。他人の人生を歩んで時間を無駄にしないでください。それは、他の人々の考えに従って生きることに等しいですから、周りの意見に惑わされずに、自分の内なる声を失わないでください。(それは、自分はまもなく死ぬという認識が、重大な決断を下すときに一番役立つと言っています。) 最後に、一番大事なのは自分の心とひらめきに従う勇気を持つことです。「ハングリーであれ。分別くさくなるな」。(これはジョブズ自身がそうありたいと思ってきたことです。)新しい世界へ旅立つみなさんにこの言葉を送ります。(このスピーチには、次で説明する四条件がすべて含まれています。)

2.スピーチの四条件
(1) 主題が明確であること
 これはどういうことかと言うと、「ひとことで言えば何を言いたかったのかが、はっきり分かる」ことです。このような話を聞くと、相手の主張が一貫していて、繰り返し話をするので、聞いている方もわかりやすく、記憶に残ります。事例の話では、3つの経験を通し、タイトルである「ハングリーであれ。分別くさくなるな」の主題を明確に伝えています。
(2) 例(例話)が鮮明に印象づけられること
 これはどういうことかというと、話に出てくる重要な場面が、目でみたように聞いた人の頭にはっきり残ることをいいます。事例の中でも、3つの重要な例話が入っており、具体的で鮮明に印象が残ります。
(3)構成がしっかりしていること
 主題が明確になっていたり、例が入っていたり、山場をしっかり工夫するなど、構成ができていることです。事例でも、テーマに最後は結びつくように事例を入れた構成になっています。文章を書くときによくいわれる、三段論法や起承転結の形をとると構成がしっかりしてきます。
(4)主題に深みがあること。
 これはどういうことかというと、その主題に、なるほど、もっともだと感心させられるような深い考えがこもっているということです。深みのあるスピーチは、考え抜かれたものであり、聞き手は共感を得るものです。聞き手に感動を与えることができれば、大きな影響を与えたことになります。事例の話は、もっとも伝えたいテーマに向けて、3つの自分の経験した内容を踏まえて、自分の最も言いたいことを伝えています。そのため、わたし達の心の中に長く残り、すばらしいスピーチだったといえるのでしょう。